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最高裁判所第一小法廷 昭和63年(行ツ)11号 判決 1988年4月21日

京都市上京区寺町通今出川上る二丁目鶴山町一一番地六

上告人

西敏男

右訴訟代理人弁護士

猪野愈

京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八番地

被上告人

上京税務署長

伴恒治

右当事者間の大阪高等裁判所昭和六〇年(行コ)第一三号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和六二年九月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人猪野愈の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事実に基づき若しくは独自の見解に立つて原判決を論難するものであつて、いずれも採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巌)

(昭和六三年(行ツ)第一一号 上告人 西敏男)

上告代理人猪野愈の上告理由

第一点 原判決は実質課税の原則に反して、形式上の名義人に対して課税するという法令の違背があり、その違背が判決に影響を及ぼすこと明白である。

即ち、本件課税の対象となつた不動産は上告人名義において登記されているが、その実質上の所有者は、柏田梅治郎であつて上告人でないことは第一審及び原審における柏田及び原審における上告人の証言によるの他、その取得の経緯、それに管理処分の経緯一切によつて明白であるのみならず、甲第一号証の和解調書の外、乙第一〇、一一号証、第一審における板橋豊の証言によつても明白である。

而して実質課税の原則こそは近代国家における税制の基本原理あり、何ら所得のない名義人が実質上の所得者として所得を生じた者に代つて課税された事柄が裁判所において是認されるが如きは憲法第三〇条に明白に違背する違法たるを免れない。

第二点 原判決は、法令の適用を誤つた違法があつて、その違背が判決に影響を及ぼすこと明らかである。

所得税法第六四条第二項は、保証債務を履行するため資産の譲渡があつた場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつた場合について規定している。

而して上告人は、その確定申告に際して板橋清子外一名について、保証担保解除として金二、六〇〇万円を回収することができなくなつた金額として記載していることが明白であり(乙第二号証)、同条第三項により、その適用をうける旨を明示しているのであるから、爾後の裁判手続においても当然その適用がなされるべきである。ところが原判決は、その点について全く触れることなく、右記載の金額について所得の計算上あつたものの如くして判断していることは正しく法令の適用を誤つた違法のそしりを免れ得ない。

第三点 原判決の事実認定は著しく経験則に違反している。

(一) 原判決は、甲第一五号証の一の領収書の弓下の筆跡について同人以外の第三者が作成したのではないかと強く疑われるとして、その証拠能力自体を排除した。

ところが、乙第一四号証において被上告人たる上京税務署担当官が真正文書として弓下力三に対して質問をした委任状が添付されている。

その添付の委任状に記載されている弓下甚蔵なる署名は、正しく甲第一五号証の一の弓下甚蔵なる署名と同一人によつて顕出されたものであることが一見して明白である。

にも拘らず、甲第一五号証の一記載の筆跡についてのみ第三者の作成の強い疑いがあるなどとした原審の判断は全く経験則に違反したものであるし、審理不尽のそしりを免れないのみならず、正しく余断と偏見によるものとしか言いようがなく、この点の誤判からのみでも破棄は免れないものと考える。

(二) 譲渡価格に関する張の証言についての原審の判断も亦、全く経験則に反している。

同証人の昭和六一年七月二一日における証言は、控訴人、被控訴人のいずれからも接触なく、従つて予断もなく記憶にのみに基づいてなした証言であつて、その証言こそ真実が物語られたものすべきであろう。

それによると、被控訴人代理人の問いに対し第一二項においてむしろ自発的に

一二 その代金はどのように支払つたのか

本件土地は更地で売渡すということになつていましたが、建物がありましたので、その解体費用は控訴人の方で負担することになつていましたが、私の方は一旦四、五〇〇万円を支払い、その中から解体費用として約一、〇〇〇万円を控訴人より受け取つたと思います。

一三 解体費用はあなたが解体をしてから費用を確定して請求したのか。

そうではなく、業界では解体は坪当たりいくらと相場がありますので、それで費用を決めて請求しました。それと、この地上の建物は工場でしたが、これには煉瓦造りの煙突があり、これは私の方で解体せず別注に出しましたので、単価は相場より高くなつています。

二七 控訴人より解体費用として一、〇〇〇万円近くのお金を受取つたのはいつか。

死亡した専務がしていましたので、いつ受取つたのか、現金で受取つたか小切手で受取つたかも定かではありませんが、私の方は受取るとすぐに下請の方に支払いました。

甲第一六号証を示す

三一 この念書に見覚えはあるか。

あります。このうち買主欄の住所、会社代表者山田耕三までと、西敏男代理人というのが、私の書いたところです。

三二 あなたが、この念書の買主欄を書いた時には、それより上の部分は書いてあつたか。

記憶ありません。

三三 あなたがこの念書の買主欄を書いたのは、この作成日付である五四年七月一五日か

そこまでは記憶しておりません。

と答え、控訴人代理人の問いに対しても

四六 甲第一六号証のあなたが書いた以外は、誰の筆跡か分からないのか

分かりません

四七 何も書いてない白紙に署名したのか。

その点も記憶ありません

四八 ここに記載されているような話があつたことは間違いないか。

金額は一、〇〇〇万円丁度ではなかつたと思いますが、このような話がありましたことは間違いありません。

四九 控訴人はその解体費用を負担したのか

していると思います。

と返事していて、そこに何らの作為の入り込んでいると疑う余地はない。

ところが、右証言に不服がある被控訴人代理人が接触をした後の証言では、全く被控訴人の主張に迎合した証言をするに至つたのである。

にも拘らず、原審はかかる念書が存在しているのに、乙第八号証の一の契約書には現状有姿の取引との記載があることなどから、張の第一回の証言を排斥しているが、果たしてこれが公正なる裁判といえるのであろうか。第一回の証言は当事者双方共証人との事前の接触なく、証人の記憶によつてなされていること明白であるが、第二回は第一回の証言により不利と感じた被控訴人代理人が証人と接触した上教導した疑いのある証言である。

そのいずれを真実ととるかは経験則、社会通念から言つても、第一回の証言というのが自然であろう。それを敢えて第一回の証言に比して信頼できないなどという裁判は自由心証主義の濫用であり経験則の著しい逸脱であるというの他はなく、全国民に対する裁判の信頼の挽回の為にも破棄されるべきであろう。

以上 (添付書類省略)

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